初めまして。久保田徹といいます。大学に在学中より映像制作を始め、これまでは会社などの組織には所属せずにドキュメンタリー映像の制作をしてきました。 私は昨年、ミャンマーで撮影中に拘束され、111日間の獄中を過ごしたのちに解放されました。私の解放を求める署名に協力してくださった方々には、改めてお礼を申し上げます。声を上げてくださり、誠にありがとうございました。
映像作家としてのこれまで
映像を始めたきっかけは些細なことでした。たまたまミャンマー出身の難民の人たちと出会い、大学の仲間たちと取材を始めました。いくつかの偶然と出会いが重なって、気がつけばそれが職業になっていました。以来、基本的には企画・撮影・編集まで一貫して制作するスタイルで、媒体はテレビやウェブメディアなど様々です。自分で企画を出すこともあれば、知人に仕事を頼まれることもあります。 以下、経歴と呼ぶほどのものではないですが、どんなことをしてきたのかを簡単にまとめました。
2014-15年 大学1-2年 群馬県の館林市で、ミャンマーから逃れてきたイスラム教徒「ロヒンギャ」のコミュニティに出会う。初めてミャンマーを訪れる。 2016年 大学3年 大学の仲間二人と、ミャンマーラカイン州で収容されているロヒンギャの状況を撮影し『ライトアップロヒンギャ』を制作する。このときクルーであった家坂徳二が、のちにNHKで久保田を主人公にした番組を制作する。 2017年 休学して単身ミャンマーで撮影を続ける。ミャンマー国軍が、ロヒンギャに対する過去最大規模の虐殺を実行する。 2018年 大学4年 映像作家で、かつて90年代のミャンマーに留学していた岸田浩和さんと共に仕事をする機会をもらうようになり、映像制作の仕事で自活するようになる。ミャンマーで制作したドキュメンタリーをYahoo!ニュース個人及びYahoo!クリエイターズで掲載する。同じく、映像制作を、VICEやAl Jazeeraなどの会社から仕事を請け負うようになる。
2019年 関根健次さんや、塚本ニキさんと映画「もったいないキッチン」の制作をする。その後、ロンドン芸術大学の修士に進学する。 2020年 コロナ禍で帰国し、のちにロンドン芸大を中退。東京を拠点に、松井至さんと内山直樹さんと共にドキュミーム(DocuMeme)というプロジェクトを始める。同メンバーでNHK BS1スペシャル『東京リトルネロ』を制作する。また、森友問題で亡くなった赤木俊夫さんの遺族、赤木雅子さんの映像を撮り始める。 2021年 入管で収容されていた外国人たちの人々の姿を撮影する。2月1日ミャンマーでクーデターが起きる。東京オリンピックで排除される野宿者たちの支援活動に関わりながら、撮影をする。また、内山直樹さんと日本各地の伝統工芸の職人の技と歴史についてのドキュメンタリー制作をする。 2022年 7月にミャンマーに渡航後、撮影中に国軍に拘束されてしまう。111日間を獄中で過ごし、11月17日に解放される。 2023年 ミャンマーのジャーナリストを支援するプロジェクト「ドキュ・アッタン(Docu Athan)」を北角裕樹さんらと開始する。
帰国とこれから
ミャンマーから解放され、様々なメディアで話をするオファーをいただくようになりました。以前もラジオなどで話す機会をいただくことはありましたが、地上波の生放送などに出演をする機会はありませんでした。ミャンマーのことを伝える機会を何度もいただき、大変ありがたい限りです。 ただ、改めて、自分は映像を作ることがしたいのだと思いました。あるいは映像を通じたコミュニケーションがしたい。 「撮る」ということは、単にカメラを向けることではありません。同じ地平に立ち、痛みや喜びを共有し、「この人から世界はどう見えるのだろう」と考え続ける行為です。その過程こそが自分にとっては豊かな時間であり、そこには善も悪もなく、清濁併せ呑んだ上での真実があるような気がします。
一つの映像を作り終えると、被写体となっていた人生の一部を体内に取り込んだような気分になります。繰り返していくうちに、身体まるごとを使って考え続けることがドキュメンタリー制作の本質ではないかと思うようになりました。それは「わからなさ」への敬意を払いつつも、システムではなく人間の側に立ち続けるということです。(村上春樹が「壁と卵」のスピーチで言ったことに近いかもしれません) 仮に、僕が現場に足を運ぶこともなく、書くことや話すことのみで仕事をするようになったとしたら、それは「わからなさ」への敬意を失い、現実の人間を蔑ろにすることだと思います。出来るだけ楽をして論じたい。全く痛みを感じることもなく、安全地帯からものを言いたい。そんな欲望に流されずに生きたいなと思います。 今後、ここで記事を書くときも、出来るだけ映像を触媒に文章が生まれる形にしたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
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