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ミャンマー選挙の本当の姿「ファシスト選挙」の実態とは

更新日:12月5日

今月初め、ミャンマー軍は緊急事態宣言の解除を発表した。今冬に総選挙を行うことを計画している。



一見すると「選挙が行われる」という見出しは良いニュースのように聞こえる。しかし現実は全く逆である。


この総選挙は民主化への一歩ではなく、軍が権力を正当化し国際的承認を得るための計画の一部だと思われる。選挙を前にして国土を掌握できていないことに焦りを募らせた軍は、自国民への弾圧を一層激化させ、現在も空爆によって多くの命が奪われている。


そのような状態において行われるミャンマー選挙は偽りであり、民意を反映するものにはなり得ない。このとき、日本を含む国際社会がどのような立場を取るかによって、ミャンマーの人々の運命は大きく変わる。


そもそも「ミャンマー政府」ではない理由

2021年以降、日本の主要メディアは、ミャンマー当局を「ミャンマー政府」ではなく「ミャンマー軍」と表記している。英語圏においても、military governmentではなく、クーデター暫定政権を意味するmilitary juntaという表現を用いている媒体が多い。


例えばNHKが「ミャンマーで実権を握る軍」などと遠回しな言い方をしている背景には、現在の軍を「政府」として認めないというのが国際社会の共通理解であるという事情がある。


ミャンマー選挙の背景

2021年2月1日、ミャンマー軍は、その2か月前の総選挙に「不正があった」と主張して緊急事態宣言を発令。それまで民主化を進めてきたアウンサンスーチー氏を含む与党政治家を次々と投獄し、国軍総司令官ミンアウンフラインが全権を掌握した。


日本で例えるなら、参院選の直後に自衛隊が国会議事堂を占拠し、内閣閣僚と与党議員を軒並み拘束したような事態を想像したら、その極端さが伝わるだろうか。


クーデター直後、自らの一票を奪われた市民は全国で抗議デモを展開し、拘束された議員の解放と軍の退陣を訴えた。


しかし軍は非武装の市民に対し実弾で応酬し、わずか2か月で500人以上を殺害した。このことを問われた軍の報道官ゾーミントゥンは「我々が本気になれば1時間で500人は殺せる」と発言。


非武装の抵抗に限界を感じた若者の一部は山岳地帯に逃れ、少数民族武装勢力と合流して民主派の抵抗勢力を結成。主要な組織として、国民防衛隊(People’s Defence Force, PDF)などがある。以降、現在に至るまでの全国的な内戦に突入した。

こうした経緯から、武力で民意を踏みにじったミャンマー軍を国際社会は政府として承認していない。2021年以降、国連総会の議席はクーデター前に任命された民主派のチョーモートゥン氏が維持しており、軍は一度も「正当な政府」として出席していない。 ASEAN会議でも軍の出席は認められておらず、当然、日本政府も承認していない。


「緊急事態宣言」解除の狙い

この緊急事態宣言は4年半続き、2025年7月31日に解除が発表された。目的は、今冬に総選挙を実施し、形式上の手続きを経た「政府」という肩書きを国際的に得ることだ。


しかし、現状のまま軍主導で選挙が行われれば、民主的とは程遠く、完全な茶番に終わることが想定される。その理由は以下の通りである。


①政治的自由が皆無

民意を持って選挙で選ばれた議員が未だに拘束されており、当然ながら出馬が不可能である。


今年に80歳を迎えたアウンサンスーチー氏は軍事法廷により禁錮と懲役合計33年の罪を言い渡され、未だ刑務所に囚われている。その消息については明らかにすらされていない。



軍の支配地域では言論・集会の自由が一切なく、反対意見を表明した市民は即座に拘束される危険がある。現在までに拘束された人々は約3万人に達しようとしている。筆者も2022年に抗議デモを撮影中に拘束され、捏造された証拠をもとに禁錮10年の判決を下された経験がある。

政治犯支援協会(AAPP)によると、取り調べによる拷問や拘束中の獄死の報告も後を経たない。


② 国土を掌握していない

軍は2024年9月、総選挙に向けた国勢調査を実施したが、330行政区のうち145区でしか実施できなかったことを認めている。残る185区においては抵抗勢力が実効支配、または戦闘地域となっており、ミャンマー軍の手が及ばない地域であることになる。総選挙を行うことが物理的に不可能であることを、ミャンマー軍自身が証明した結果となった。


ジャーナリスト Thomas Van Linge作成。現在、軍が実効支配しているのは国土の半分以下であることは多くの専門家が指摘している通りである。

ジャーナリスト Thomas Van Linge作成。現在、軍が実効支配しているのは国土の半分以下であることは多くの専門家が指摘している通りである。


③自国民に対する爆撃を継続している

国境地域の多くを抵抗勢力に奪還されたミャンマー軍は、空軍戦力を駆使して民間人を無差別に攻撃している。病院や学校、避難所など本来保護されるべき施設を標的にした空爆が繰り返され、抵抗勢力のみならず、彼らを支持する一般市民の意志を打ち砕くことが狙いとされている。


2週間で58回の爆撃が行われたことを伝える記事 (イラワジ紙)

2週間で58回の爆撃が行われたことを伝える記事 (イラワジ紙)

2週間で58回の爆撃が行われたことを伝える記事 (イラワジ紙)

イラワジ紙によると5月12日、デパイン区の学校施設にクラスター爆弾が学校施設を直撃した。この爆撃により、22人の子どもが犠牲になったとされる。

抵抗勢力の攻勢によって劣勢に追い込まれていたミャンマー軍だが、今年に入り中国から全面的な支援を取り付けたことで、その暴力に自信を深めている。2025年2月にはミャンマー軍は「民間警備サービス法(Private Security Services Law)」を施行し、中国の民間警備会社(PSCs)がミャンマー国内で活動できるようになった。


ラカイン州のチャウピュー(Kyaukphyu)では、中国が開発した天然ガスパイプライン施設を守るために中国人の武装警備員が派遣されているという報道もある。中国は、ジェット機やドローンなどの軍事援助を継続的に提供しており、民間人の虐殺に用いられている。


この結果、350万人以上の市民が住まいを追われ国内避難民となった。国連WFP(世界食糧計画)によれば、2025年初頭の時点で国民の4人に1人が深刻な食料不足に直面しており、今年3月に発生した大地震が状況をさらに悪化させた。


ミャンマー軍による爆撃に怯え、飢えに苦しむ人々は数百万規模に上る。このような人々からすれば、軍は自らの生存を脅かす脅威以外の何物でもなく、選挙などは現実離れした話でしかない。


日本政府の立場

こうした状況を踏まえ、日本政府は外務大臣談話を発表した。


我が国としては、総選挙は民主的な政治体制の回復に向けたプロセスとして位置付けられるべきと考えています。被拘束者の解放や当事者間の真摯な対話を始めとする政治的進展に向けた動きが見られないまま総選挙が実施されるような事態となれば、ミャンマー国民による更なる強い反発を招きかねず、平和的解決がより困難になることを深刻に懸念します。

外務省HP

日本政府が問題点を端的に指摘し、懸念を表明したことは重要だ。今後、総選挙を承認しないという明確な立場を示し、国際社会が結束して軍政の正当化を阻止することが求められる。


中国とASEANの動き

中国は経済・軍事両面でミャンマー軍を支援し続けており、港湾開発や資源採掘で影響力を拡大している。


このような支援を背景に、今年4月、ミャンマー軍トップのミンアウンフラインがタイ・バンコクで開かれた地域首脳サミットへ出席し、タイ首相などと握手を交わす様子が伝えられた。


クーデター以後の4年間、孤立状態にあったミャンマー軍が公の場に姿を現したのはこれが初めてのことであった。(ロシアや中国、ベラルーシ以外の訪問として初。)


東南アジア諸国の中にも、中国による圧力を背景に、ミャンマーとの関係改善に動く国が出始める可能性がある。こうした流れが強まれば、ミャンマー軍への国際的圧力は急速に弱まるだろう。


日本の役割 -自由な空間を守るため

ミャンマーの未来は、ミャンマー国民だけでなく、アジア全体の自由に直結している。もしこの冬のミャンマー選挙が、軍政の正当化という既成事実として国際社会に受け入れられれば、武力による民意の奪取を認める前例となり、東アジアにおける権威主義のさらなる台頭を招く。それは日本にとっても無関係ではない。


日本は軍による総選挙を承認しないという明確な姿勢を示し、民主派の政府であるNUG(国民統一政府)との対話の機会を設けていくべきだと考える。


以下はNGO「Freedom House」発表の地図が示す通り、アジアで一定の自由が担保されている国(緑色で表示される)はごくわずかだ。その中で、日本は数少ない「自由な国」として大きな影響力を有している。アメリカの影響力が低下する中、日本はアジアで弾圧される人々の声に耳を傾け、自由を守るためにできることを積み重ねていくべきだ。


NGO「Freedom House」発表の地図

Freedom Houseより


『ファシスト選挙』が訴えるもの

最後に、ミャンマー人ミュージシャン、ノーヴェムトゥーによる楽曲『ファシスト選挙』のミュージックビデオを紹介したい。


映像には、軍支配地域で村人たちが強制的に投票所へ向かわされ、トラックに押し込まれる様子が描かれる。それは、軍が企む形式だけの「Sham Election(偽りの選挙)」を決して受け入れてはならない、という強いメッセージを放っている。


Youtubeの字幕機能をオンにすれば、日本語、英語の字幕で見ることができる。


『ファシスト選挙』のMV。制作: ピョーダナー、チーガン

*作中では鉤十字が描かれるが、「ナチスの鉤十字とミャンマー軍事評議会のシンボルを重ねることで、不条理を表現した」との意図だと制作者のピョーダナーは説明。

『ファシスト選挙』のミュージックビデオ

『ファシスト選挙』歌詞

偽の選挙 ファシストによる選挙よ

2008年の憲法

イカサマな法の下に頭を下げるな

ファシスト軍の茶番につきあう犬に成り下がるな

「ア チャ チャ ア チャ チャ」 そんなデタラメを信じるか?

背後から刺されたナイフをそのまま受け入れる恥知らずたちよ

己の頭を使い備えろ 市民の側に立て

ボイコットだ

ふしだらな嘘にまみれた選挙よ

目まぐるしく変わる虚言

不当に逮捕された人々を思いだせ

勝利のため 己のため

己の闘争 己の知恵をしぼれ

茶番よ 世界中から見放され

必ず勝つギャンブルのからくり


 
 
 

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